AGAとテストステロンの関係

~男性ホルモンが多いとハゲるって本当?~

小林 浩

Dr.監修
Dクリニック札幌 院長小林 浩

2003年4月 旭川医科大学病院(整形外科)入局
2005年4月 私立札幌病院(整形外科)勤務
2006年4月 私立稚内病院(整形外科)勤務
2007年4月 富良野協会病院(整形外科)勤務
2012年4月 旭川医科大学病院(整形外科)勤務
2014年4月 士別市立病院(整形外科)勤務
2015年4月 名寄市立病院(整形外科)勤務
2018年4月 樽協会病院(整形外科)勤務
2024年4月 Dクリニック札幌 院長就任

このコラムのポイント

  • テストステロンではなく、変換されたジヒドロテストステロンが薄毛の原因

  • テストステロンが多いからといって、薄毛になるわけではない

  • ジヒドロテストステロンの量を減らすには内服薬が効果的

男性ホルモンが多いと
ハゲるって本当?

「男性ホルモンが多い人はハゲる」というのを聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。確かに薄毛は男性に多いお悩みのため、男性ホルモンが関与している気もしますが、実際はどうなのでしょうか。ここでは、男性ホルモンと薄毛の関係についてお伝えします。

男性ホルモン「テストステロン」と薄毛の関係

男性ホルモンにはさまざまな種類がありますが、薄毛に関係しているのは「テストステロン」です。テストステロンは男性ホルモンの中でも分泌量が最も多く、男性らしい身体を作り、生殖機能を向上させる働きがあります。
男性にとって欠かせないテストステロンですが、厳密に言うとテストステロン自体が薄毛の原因になるわけではありません。実は、テストステロンがあるきっかけによって変換される物質が薄毛を引き起こすのです。

薄毛の原因は「ジヒドロテストステロン(DHT)」

薄毛の原因はテストステロンではなく「ジヒドロテストステロン(DHT)」です。名前はよく似ていますが、テストステロンは善玉男性ホルモン、ジヒドロテストステロンは悪玉男性ホルモンと呼ばれており、全く異なる働きをします。テストステロンが成人男性にとって良い働きをするのに対し、ジヒドロテストステロンは思春期以降ニキビや前立腺肥大の原因になるなど、あまりよい働きをしません。また、AGAを引き起こすのもジヒドロテストステロンが原因です。

AGA(男性型脱毛症)のメカニズム

AGAはジヒドロテストステロンが原因で生じますが、なぜテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されてしまうのでしょうか。これには、還元酵素「5αリダクターゼ」の存在が関わっています。テストステロンが5αリダクターゼと結びつくことによって、ジヒドロテストステロンが発生してしまうのです。このジヒドロテストステロンは頭皮に存在する「アンドロゲンレセプター」と結合することで、毛髪の成長を阻害します。これがAGAのメカニズムです。
なお、5αリダクターゼの活性度は遺伝によって引き継がれるため、テストステロンが多い=薄毛になるとは限らず、5αリダクターゼの活性度が高い場合は薄毛になりやすいと考えられています。

テストステロンの量と薄毛は関係ない!

AGAのメカニズムについてお伝えしましたが、結論として、テストステロンが多いからといって薄毛になるとは限りません。テストステロンは男性にとって必要不可欠なホルモンで、男性の心と体に良い影響をもたらします。そのため、男性ホルモンが多い人は薄毛になるというのは誤っています。男性が毎日イキイキと過ごすためには、テストステロン値が高いほうがよいのです。

そもそもテストステロンとは

男性にとってプラスの働きをするテストステロンですが、そもそもどのようなホルモンで、どういった効果があるのでしょうか。テストステロンについて詳しくみていきましょう。

テストステロンの役割

テストステロンには、男性らしい肉体の形成、生殖機能向上、精神の安定を保つなど、さまざまな役割があります。また、ドーパミンの産生を促すため幸福感が増し、集中力や記憶力が向上するなど、日常生活だけでなく仕事をする上でも大きな影響を与えます。テストステロンは男性が生きていく上で必要不可欠なホルモンといえるのです。

テストステロンはどこから分泌される?分泌メカニズムとは

テストステロンが分泌される主な部位は精巣です。脳の視床下部から下垂体(ホルモンの働きをコントロールする場所)に性腺刺激ホルモンを分泌するよう指令が出され、精巣からテストステロンが分泌されます。

テストステロンの正常値

テストステロンが多いかどうかを確認するためには基準値が用いられます。テストステロンには「総テストステロン」と「遊離テストステロン」があり、遊離テストステロンは加齢に伴い減少するため、ご自身の年齢・テストステロン値と比較することでテストステロンの多い少ないを判断できます。

年齢 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代
上限値 27.9pg/mL 23.1pg/mL 21.6pg/mL 18.4pg/mL 16.7pg/mL 13.8pg/mL
下限値 8.5pg/mL 7.6pg/mL 7.7pg/mL 6.9pg/mL 5.4pg/mL 4.5pg/mL

(日本人男性におけるフリーテストステロン値の年齢分布 出典:岩本晃明ほか:日泌会誌 95 : 751, 2004)

テストステロン値の測定方法

テストステロンが多いか少ないかは、血液検査で確認することができます。当院では血液検査だけでなく、血管年齢・超音波による骨密度検査、睡眠時の勃起力測定など、身体的・精神的・性的な側面からアプローチする検査「男性力ドック」を行うことが可能です。ご自身のテストステロン値が高いか低いかを確認したい方は、お気軽に当院までご相談ください。

テストステロンが多い人の特徴

テストステロンが多い人には2つの特徴があります。

<男性らしい体格>
テストステロンが多いと筋肉や骨格ががっしりとし、男性らしい体つきになります。

<前向きでチャレンジ精神豊富>
テストステロンが多い人は、あまりくよくよ考えません。いつも前向きなので、仕事で失敗しても論理的に考えることができ、再びチャレンジすることができます。顔つきもイキイキと若々しく見えることが多いです。

テストステロンが少ない男性の特徴

テストステロンが少ない人には3つの特徴があります。

<脂肪がつきやすく筋肉がつきにくい>
テストステロンには筋肉や骨格をがっしりさせる働きがあるため、分泌量が少ないとなかなか筋肉がつきません。脂肪がつきやすく太りやすくなってしまうでしょう。

<疲れやすくなる>
テストステロンが少ないと筋肉がつきにくくなるため、自分自身の体を支えるのが難しくなります。その結果、体力がなくなり疲れやすくなるのです。

<精神的に不安定>
テストステロンが少ない男性は、抑うつ症状・イライラ・不安・やる気の消失・焦燥感などが現れやすく、精神的に不安定な状態になってしまいます。

テストステロンの5つの効果

テストステロンには男性が活力的に過ごすために重要な5つの効果が期待できます。

性欲を高める

テストステロンは精子の生成や性欲に関わっており、男性の生殖機能を高める重要な役割を担っています。

記憶力や集中力のアップ

テストステロンには、記憶力・集中力・決断力・判断力などの知的機能を高める効果が期待できます。認知症は男性よりも女性のほうが発症数が多いこと、閉経後の女性にテストステロンを投与すると記憶力が向上したことなどからも、テストステロンに記憶力や集中力を高める効果があるとわかります。

前向きな気持ちにさせる

テストステロンは細胞小器官ミトコンドリアの健康維持にも不可欠です。ミトコンドリアは若々しくイキイキと活動するために重要な細胞で、不安・怒りなどの感情を落ち着かせることができます。また、ドーパミンの産生を促すため、前向きな気持ちにすることができます。

男性らしい体格を作る

テストステロンは男性特有の筋肉や骨格を形成する働きがあるため、女性にはないがっしりとした体つきになります。このような筋肉増強作用はドーピングなどの禁止薬物にも使用されているほどです。

健康的な体をキープする

テストステロンには一酸化窒素を産生する働きがあります。一酸化窒素には内蔵・血管にコレステロールなどが溜まるのを防ぎ、血管に関する病気を予防したり内臓脂肪を燃焼したりするため、生活習慣病リスクが下がると考えられています。

テストステロンが減る原因とは

テストステロンは男性にとって重要なホルモンですが、なぜ減少するのかみていきましょう。

<加齢>
テストステロンは20〜30歳が分泌量のピークで、その後どんどん減少していきます。加齢に伴い仕事のモチベーションが下がったり、性欲が減ったりと、さまざまな不調を感じるようになるでしょう。

<ストレス>
ストレスによって体内でコルチゾールが分泌されます。コルチゾールにはストレスから身体を守る働きがありますが、過剰に分泌されると製造している副腎に負担がかかり、副腎で製造されるテストステロンの元となる「DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)」が製造できなくなるのです。その結果テストステロンが減少してしまいます。

<生活習慣>
睡眠不足や偏った食生活など、生活習慣の乱れはストレスに繋がりテストステロンの分泌量を減少させてしまいます。規則正しい生活を心がけることが重要です。

薄毛対策には
ジヒドロテストステロンを抑えることが重要!

テストステロンが多いからといって薄毛になるわけではなく、ジヒドロテストステロンによって薄毛が引き起こされます。すなわち、薄毛対策にはジヒドロテストステロンを抑制することが重要なのです。ここでは、ジヒドロテストステロンが増える原因や、発生を抑える方法をご紹介します。

ジヒドロテストステロンが増える原因

ジヒドロテストステロンは、男性ホルモン「テストステロン」と還元酵素「5αリダクターゼ」が結合することで生成されます。テストステロンが多いとジヒドロテストステロンも増えるのでは?と思う方が多いかもしれませんが、実はテストステロンの量とジヒドロテストステロンの量は関係ありません。ジヒドロテストステロンが増えるのは5αリダクターゼの活性度が関係しているのです。この5αリダクターゼの活性度は遺伝によって決まることが多いため、親族に薄毛の人がいる場合はジヒドロテストステロンが増える可能性があります。

ジヒドロテストステロンが多い人の特徴

ジヒドロテストステロンが多い人は、AGA特有の症状が出ていることが多いです。
・前髪のM字部分が後退している
・頭頂部が薄くなってきている

このようなAGAの症状に当てはまる方は、ジヒドロテストステロンが多いといえるでしょう。また、親族に薄毛の人がいる場合もジヒドロテストステロンが多い可能性があります。

ジヒドロテストステロンにもメリットはある?

ジヒドロテストステロンは、男の子の赤ちゃんが母親のお腹の中で成長する際に必要です。しかし、AGAの原因になるなど悪い影響を与えることが多く、基本的に成人男性にとってジヒドロテストステロンが多いことはデメリットとなります。

ジヒドロテストステロンを減らす方法

ジヒドロテストステロンを減らすためには、5αリダクターゼと結合するのを防ぐことが重要です。そのためには病院やAGA治療専門クリニックで飲み薬を処方してもらうとよいでしょう。また、薬の服用と同時に食生活を改善したり、生活習慣を見直したりすることも大切です。
ジヒドロテストステロンを抑制するには、亜鉛やビタミンB6を積極的に摂取しましょう。さらに、ジヒドロテストステロンは汗や尿によって排出されるため、適度な運動で汗を流すようにしてください。

男性らしい身体作りのために!
テストステロンを増やす方法

テストステロンは男性らしい身体作りに必要不可欠です。テストステロン値の上げ方をみていきましょう。

食べ物

テストステロン値を上げるためには「亜鉛」「たんぱく質」「ビタミン」を積極的に摂取しましょう。
亜鉛は精子の働きに関与し、海外ではセックスミネラルとも呼ばれています。たんぱく質は良質な筋肉を作り、男性ホルモンの活性化にも繋がります。また、ビタミンは他の栄養素の吸収をサポートするため欠かせない栄養素です。
テストステロンを増やす食材をお伝えしますので、毎日の食事メニューに取り入れるようにしましょう。

  • <亜鉛>
    ・牡蠣
    ・マイワシ
    ・牛レバー
    ・豚レバー
    ・牛モモ肉
    ・卵
    ・カシューナッツ など
  • <たんぱく質>
    ・卵
    ・牛肉
    ・豚肉
    ・鶏肉
    ・魚
    ・牛乳 など
  • <ビタミンA>
    ・ニンジン
    ・モロヘイヤ
    ・卵黄
    ・鶏レバー
    ・豚レバー
    ・ウナギ
    ・バター など
  • <ビタミンD>
    ・干しシイタケ
    ・しらす干し
    ・イクラ
    ・きくらげ
    ・アンコウのキモ など
  • <ビタミンE>
    ・ヒマワリ油
    ・オリーブ油
    ・ウナギ
    ・アーモンド など
  • <ビタミンK>
    ・納豆
    ・わかめ など

筋トレ・運動

テストステロンを増やすためには、下記のトレーニングや運動を取り入れてみましょう。
・スクワット
・腕立て伏せ
・早歩き
・階段上り下り

有酸素運動にはテストステロンを増やす働きはありませんが、肥満になるとテストステロン量が減少するため、筋トレと同時に取り入れるようにしましょう。

睡眠・ストレス

テストステロンを増やすためには、睡眠やストレス発散にも気を配りましょう。

<睡眠>
睡眠中は体内で成長ホルモンが分泌され、傷んだ身体のメンテナンスをします。男性ホルモン分泌のためにも、睡眠時間を確保して心身の健康を保つようにしましょう。特に22時〜2時の間に成長ホルモンは多く分泌されるため、できるだけこの時間に眠るよう心がけてください。

<ストレス>
ストレスによってテストステロンの分泌量が低下します。ストレスをゼロにするのは難しいですが、少しでもストレスを発散できるよう趣味を見つけたりリラックスできる時間を作ったりしましょう。

サプリメント(テストステロンブースター)

テストステロンを増やす食事を毎日続けるのは難しいでしょう。そんなときにはサプリメントで補うのもおすすめです。積極的に取り入れたい2種類のサプリメントをご紹介します。

<亜鉛>
亜鉛はたんぱく質の合成に欠かせない栄養素で、細胞の活性化・抗酸化作用・免疫の活性化・アルコール分解・認知能力・精神安定などに効果が期待できます。テストステロンの分泌において、抗酸化や細胞の活性化、精神安定は大変重要です。また、亜鉛は髪の毛の主成分であるケラチンの合成をサポートします。

<マカ>
マカには必須アミノ酸・ミネラル・ビタミンが豊富に含まれています。髪の毛の主成分はたんぱく質ですが、たんぱく質を構成するのはアミノ酸のため、マカを摂取することで薄毛予防に効果が見込まれるのです。

他にも薄毛対策におすすめなのが「ノコギリヤシ」です。ノコギリヤシは5αリダクターゼの働きを抑制するため、薄毛に悩んでいる方はサプリメントで摂取するとよいでしょう。
また、薄毛治療薬を服用している方は、自己判断でサプリメントを摂取せず必ず医師に相談してください。体調不良などが起こる危険性があります。

漢方

テストステロンを増やすためには漢方薬を取り入れるのもおすすめです。
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
・海馬補腎丸(かいばほじんがん)

などが代表的な漢方薬といえます。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は病院で処方してもらえる漢方薬で、海馬補腎丸(かいばほじんがん)は漢方専門薬局で購入が可能です。
これらの漢方はテストステロンを増やし、疲れやだるさを解消する効果が見込まれます。また、不妊治療にも使われている漢方薬で、精子数や精子の運動率改善にも効果が期待できます。

ホルモン補充療法

テストステロンを増やす方法に、ホルモン補充療法があります。ここでは日本で多い注射と外用薬(塗り薬)によるホルモン補充療法についてご紹介します。

<注射>
筋肉注射を1〜4週間に一度行います。使用する製剤はデポー製剤の「エナント酸テストステロン(エナルモンデポー®)」です。副作用が比較的少ないため、多くの方に選ばれています。

<外用薬>
外用薬を陰嚢や脇の下などに塗布することで、テストステロン値を高めることが可能です。1日1回塗布することで、緩やかな効果が期待できます。

テストステロンに関するよくある質問

オナニー(自慰)・オナ禁とテストステロンは関係していますか?

自慰行為のしすぎはテストステロン値を下げると考えられていますが、1週間以上射精しない場合もテストステロン値を下げてしまうのです。そのため、1週間に一度のペースでは行うようにしましょう。

テストステロンが多い人はモテるのでしょうか?

テストステロンが多い人は、男性らしい体つきになったり、前向きでポジティブな性格になったりします。仕事もバリバリこなす人が多いため、モテる人が多いのは間違いではないかもしれません。

薬指の長さとテストステロン値は関係しますか?

薬指にはテストステロン受容体が相対的に多いといわれています。そのため、薬指が長い人はテストステロンの影響を大きく受けている傾向があるのです。人差し指と薬指を比較してみて、薬指のほうが長ければテストステロンの影響を深く受けているといえます。

テストステロンが多くても薄毛になるとは限らない!

テストステロンと薄毛の関係についてお伝えしましたが、結論として「テストステロンの多さと薄毛は関係ない」ということがわかりました。テストステロンは男性にとってなくてはならないホルモンです。年齢に伴いテストステロン値は下がっていき、心と体の不調に現れてしまうため、積極的に増やしていくようにしましょう。食生活や生活習慣の改善、サプリメントや漢方薬の活用など、できることから毎日の生活に取り入れ、いつまでも若々しくエネルギッシュな男性でいられるよう取り組んでください。

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